労災に気付けない人を救えるか|遺族補償・時効延長・職業性がん

2026.07.09 21:00(4か月前) 国会質問活動の記録 |川村ゆうだい

主な質疑内容

2026年7月9日、参議院厚生労働委員会での労働者災害補償保険法等改正案の審議。遺族補償年金の夫要件の撤廃、消滅時効を延長する対象疾病、職業性がんの労災請求について質問しました。

  • 労災保険のセーフティネット強化と残る運用課題
  • 遺族補償年金の夫要件撤廃で対象となる人数
  • 施行日前に妻を亡くした夫は救済対象になるか
  • 消滅時効を5年に延長する対象疾病
  • 高次脳機能障害を時効延長の対象から漏らさない運用
  • 石綿以外の職業性がんの労災請求
  • 労災病院の病職歴調査の職業性疾病対策への活用

労災に気付けない人を救えるか|遺族補償・時効延長・職業性がん

議事録

第221回国会 参議院 厚生労働委員会 第17号 令和8年7月9日 国会会議録検索システム

川村雄大君 公明党の川村雄大でございます。
引き続きまして質疑をさせていただきます。
今回の改正におきましては、遺族補償年金等について、夫にのみ課されていた支給要件を撤廃することや、疾病の性質上、災害補償の事由に該当するかどうか等を容易に判断できない一定の疾病について、療養補償給付、休業補償給付、介護補償給付等の請求権の消滅時効時間を二年から五年に延長すること等が盛り込まれております。いずれも労災保険制度のセーフティーネット機能を強化する重要な改正であるというふうに思っております。また、男女の格差を是正するという観点からも重要だというふうに考えております。
一方で、制度を知らないために申請に至らない、あるいは事業主との関係を懸念して請求をためらう、それから医療機関や相談窓口でそもそも労災の可能性が十分に考慮されないなど、従前から指摘されてきた運用面の課題は改正後も残り得るというふうに考えます。
そこで、今回の改正によって新たに補償や救済の対象となる方がどの程度いるのか、それから、なお救済にたどり着きにくい方がどこに残るのか等を整理する観点から、以下、質疑をさせていただきます。
まず、遺族補償年金における支給要件等の見直しについて伺います。
遺族補償年金は、業務上の死亡により遺族が失った被扶養利益を補填する労災補償制度の本旨に関わる給付であるというふうに考えております。今回の改正では、夫にのみ課されていた妻の死亡時に五十五歳以上又は一定の障害状態にあることという要件を撤廃するわけであります。これは、男性は自活できるはずという古い前提を改め、労災補償制度における男女差を解消する重要な改正であるというふうに受け止めています。
そこで、まず現状について伺いますけれども、現行制度における遺族補償年金について、直近の受給者数と新規支給決定件数、被災労働者の男女別、受給権者の続柄別にあらましをお示しください。また、今回の夫要件撤廃によって新たに遺族補償年金を受給可能となる夫は年間何件程度と見込んでいるか、その推計の前提も含めてお伺いしたいと思います。

政府参考人(岸本武史君) お答えいたします。
令和六年度末の遺族補償年金等の受給者数九万九千九人のうち被災者の性別が不詳である方を除きました九万七千五百二十四人につきまして、被災労働者の男女別受給者の続き柄別に見ますと、まず被災労働者が男性の場合でございますが、続き柄、夫はゼロ人、妻が八万七千二百八十八人、子は一千三百七十人、父母は五千四百七十一人、孫は三百五十一人、祖父母二百五十五人、兄弟姉妹六百七十七人の合計九万五千四百十二人、また被災労働者が女性の場合でございますが、こちらは、続き柄、夫が千百四十人、妻ゼロ人、子は二百四十二人、父母は五百七十一人、孫七十三人、祖父母三十人、兄弟姉妹五十六人の合計二千百十二人となっております。
次に、遺族補償年金等を令和六年度に新規に支給開始された人数は、被災労働者が男性の場合は二千五十六人、被災労働者が女性の場合は五十九人となっておりますが、この方々の続き柄別の集計はしてございません。
また、今般の法案におきまして、遺族補償年金等について夫のみに課されている要件を撤廃することを盛り込んでいるところでございますが、これにより遺族補償年金等の受給者、新たに年間三十三人程度増える、こういう見込みを持っているところでございます。

川村雄大君 ありがとうございます。
予想どおりといいますか、データでありますけれども、やはり現状でも夫が受給しているというのは全体の一%程度、妻に比べてやっぱり大分少ないというような現状かと思います。
それから、今回の夫要件撤廃による新規対象者数、精緻な推計は困難だと思いますけれども、数十人という単位であるというふうに今御答弁がありまして、これまでの経過から考えますと、一旦は限定的な規模かなというところかと思います。もちろん、労災はなくすべきでございまして、この数値が低いことは当然いいわけでありますけれども、一旦限定的な対象者ということになろうかと思います。
次に、いわゆる施行日前事案について確認をしたいと思います。
改正案の附則第二条では、令和九年四月一日の施行日前に支給すべき事由が生じた遺族補償年金等については、遺族の範囲、順位等は、なお従前の例による、従前の例によるとされております。したがって、施行日前に労働者たる妻が業務上亡くなられて、夫が、生計維持関係にありながら、死亡当時五十五歳未満かつ一定の障害状態になかったために遺族補償年金の受給権が発生しなかったという事案については、改正後も救済対象とならないものと理解をしております。
では、こうした施行日前事案がどの程度存在するか、政府として把握されておりましたら教えてください。

政府参考人(岸本武史君) お答えいたします。
御指摘のようなケースにつきましては、具体的な件数は把握をしてございません。
ただ、令和二年度から令和六年度に、被災者が女性で遺族補償一時金が支給された人数は、令和二年度六十二人、令和三年度四十人、令和四年度五十二人、令和五年度六十人、令和六年度六十七人でございまして、夫にのみ課された支給要件によって年金の方の受給権が発生せず、一時金を受給された方というのがこの各年度の支給人数の内数として存在するという関係でございます。

川村雄大君 ありがとうございました。やはり数十人という単位かなというふうに思います。
であれば、少なくとも財政上は、実態を把握した上で、例えば、過去に遡及まではしないまでも、施行日後分に係る経過措置の可否については検討をすべきではないかと、こう感じたわけであります。これについて、実は衆議院の厚労委員会でも議論があったというふうに理解をしておりますが、困難であるというような御答弁でございました。
いずれにしても、現行でこれだけ妻と夫の受給件数に差があることもあって、改正後も、自分が対象者になったという認識が持てない男性が発生するのではないかとも懸念をいたしますので、是非制度の周知徹底をお願いしたいと思います。いずれにしても、男女の別をなくした制度設計というのは重要な観点であるというふうに思っております。
次に、消滅時効時間の見直しと対象疾病について伺いたいと思います。
今回の改正では、疾病の性質上、労災保険給付を支給すべき事由に該当するか容易に判断できない疾病について請求権の時効を二年から五年に延長するとされています。政府資料上は、脳・心臓疾患、精神疾患、石綿関連疾病が想定されていると承知をしておりますけれども、この政令で定める対象疾病について、具体的にどのような疾患名、病気が想定されるか、少し具体的に、それらを想定した根拠とともに伺いたいと思います。また、施行後の請求状況等を踏まえて、必要に応じて対象疾病を追加あるいは見直す考えはあるか、確認をしたいと思います。

国務大臣(上野賢一郎君) 今般の消滅時効の見直しにおきましては、疾病の性質上、業務災害等に当たるかどうか判断が難しい場合があり、実際に時効後に請求がなされた件数の割合が比較的高い疾病について消滅時効期間を五年としているところであります。
対象疾病については、本法案の成立後、政令で定めることとしておりますが、具体的には、脳梗塞、心筋梗塞、うつ病、石綿による肺がん、中皮腫等を想定をしておりますが、またその後の施行状況を踏まえ、必要に応じて見直しを検討していきたいと考えています。

川村雄大君 適時適切に対象疾病見直していくということでございました。脳・心臓疾患って、つまり虚血性の疾患であります。
関連して、高次脳機能障害を取り上げたいと思います。
高次脳機能障害は、外見上分かりにくく、本人や家族、医療機関もなかなか気付かないまま放置されてしまうということが問題でございます。例えば、記憶障害、新しいことを覚えられないとか、注意障害、一つのことに集中できない、遂行機能障害、それから社会的行動障害、感情のコントロールが難しくいらいらしやすい等々がその症状として説明をされております。つまり、本人の性格や感情のコントロールの問題と片付けられて、自身でも病識が持てず、周囲からも理解がされず、困難を抱えてしまうわけであります。高次脳機能障害、その原因の多くは内因性の脳血管障害に起因しております。
そこで、確認ですけれども、業務に基づく内因性の血管疾患を原因として高次脳機能障害が生じた場合、本人や家族が労災との関係に気付くまで時間を要することが想定されます。こうした事案についても、今回の時効延長の趣旨から漏れないように、対象疾病や運用上の取扱いを明確にしていただけないでしょうか。必要に応じて政令又は運用通知等で明確にすべきではないでしょうか。

政府参考人(岸本武史君) お答えいたします。
業務上疾病の中には、御指摘の脳血管疾患のように、当初の業務上疾病の経過又はその進行により新たな疾病を発症する場合がございます。
当初の業務上疾病と新たに発病した疾病について医学的な関連性が認められます場合には、新たな疾病は当初の業務上疾病等と一体のものとして取り扱うこととしておりますので、当初の業務上疾病の方で労災保険給付請求がなされていれば、新たな、後から、後続した新たな疾病について消滅時効には掛からないということになっております。
その上で、脳血管疾患につきましては、今般の時効期間の見直しにおきまして政令で指定をする疾病の一つとして検討している内容でございますので、そうなりました暁には、現行制度の周知と併せまして、新制度の円滑な施行に努めてまいりたいと考えております。

川村雄大君 ありがとうございます。
高次脳機能障害につきましては、昨年の臨時国会で高次脳機能障害者支援法が成立をいたしておりますので、この高次脳機能障害ということについてもしっかり社会的にも認知を高めていきたいというふうに考えております。
次に、職業性がんと労災病院の役割について伺います。
全国に三十ある労災病院等では、独自の病職歴調査を行っております。これは、労災病院に入院した患者さんは、病歴だけでなくて職業歴等を詳細に調査をして、職場環境と疾病との関連を研究に役立てております。労災病院の病職歴調査というのは、職業歴データが四百六十万件、病歴データは八百六十八万件を蓄積する世界的にも貴重なデータベースでございます。
二〇二五年に出された疫学調査論文によりますと、複数の先進国の推計では、がん患者の二から五%が職業性暴露に起因するとされておりまして、これはかなり多い数値だと思います。
例えば日本では、二〇二三年に新たにがんと診断された方、百万人ですから、これを単純に当てはめれば、年間二万から五万人が職業性暴露に関連して発がんをしているということもあり得べしであるわけでございます。
しかし、我が国において、職業性がんを含む職業性暴露関連疾患について労災補償の新規支給決定件数は年間千件程度で、その大半は石綿関連疾患であります。職業性暴露によるがんの中には石綿関連疾患以外にも様々あるわけでございまして、例えば芳香族アミンによる膀胱がん、印刷職場における胆管がんなど、過去に規制対象外、あるいは十分認識されていなかった暴露によって発生した事例も知られております。
そこで伺いますけれども、石綿以外の職業性がんについても、発症までの潜伏期間が長くて、本人も医療機関も過去の職業歴との関係に気付きにくいため、労災請求にたどり着きにくい疾病類型であるという認識はおありでしょうか。

政府参考人(岸本武史君) お答えいたします。
今般の改正案におきましては、その性質上、業務災害等に当たるかどうか容易に判断することができない疾病について消滅時効期間を二年から五年に延長する、そういった対象を政令で定めるという内容を盛り込んでいるところでございますが、現時点で想定しております脳・心臓疾患等につきましては、やはり想定される疾病の要因が多岐にわたることから、業務上災害であるかどうかの、否かの判断が難しい場合があり、実際にも時効後に請求なされた件数が比較的高いことも確認されているところでございます。
御指摘の職業がんでございますが、業務において発がん性物質に暴露することにより発症する職業がんの中には、暴露開始から数年ないし数十年かけて発症するものもあると承知をしております。また、その要因が多岐にわたるような場合には、労働者自身が業務が原因となってがんを発症したかどうか気付きにくい、こういったケースも考えられるというふうに承知をしております。
本改正案、成立をいたしました場合には、施行後の状況なども見ながら、必要に応じて対象疾病の追加についても検討をしてまいりたいと考えております。

川村雄大君 ありがとうございます。
まさにアスベストのみならず様々なことが職業がんの引き金になるということも考慮、検討、常に入れていただければと思います。
そして、最後、改めて、全国に今三十ある労災病院等の社会的使命をどのように位置付けているのかを御見解を伺えればと思います。また、この労災病院で蓄積をしてきたこの病職歴調査の知見を最大限に活用して、職業性がんを含む職業性疾病に関する科学的知見を集積し検証するとともに、政令指定疾病の将来的な見直しにつながる等、より広く医療の発展に生かしていくべきと考えますけれども、併せて大臣の御見解を伺います。

国務大臣(上野賢一郎君) 労災病院等を運営をいたします独立行政法人労働者健康安全機構に対して、厚生労働省が示す中期目標がございます。それにおいては、労災病院は、勤労者医療の充実に向け、疾病の予防から診断、治療及び治療と仕事の両立支援までの一貫した取組等を推進することや、得られた知見や好事例を他の医療機関に情報提供すること等を政策的役割としております。
御指摘の病職歴調査については、職業と疾病との関連性について研究をし、研究成果を疾病の予防等に活用するため、入院患者を対象に病歴と職業歴を調査をしているものであります。今般の消滅時効の見直しの対象疾病につきましては、本法案が成立した暁には政令で定めることとしておりますが、その将来的な見直しについては、その後の施行状況や御指摘の医学的知見の蓄積も踏まえ、病職歴調査をどのように活用できるのかも含め、必要に応じ検討していきたいと考えています。

川村雄大君 どうもありがとうございました。以上で終わります。

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